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スタディーセッション『笑顔で介護』後編

スローエイジング編集部発足のスタディーセッション。今回はスローエイジング世代の方々なら一度は考えことがあるはず『介護』についてです。 自分の人生に「介護する」時期がくる人も、こない人も。もしも介護することになったら・・・?そんな万が一に備えて学びます。


『巣立つ子供と違い、介護は送ること。どんなに一生懸命頑張っても後悔は必ず残ります。

だから毎日が花マルじゃなくていい、とんとんでいいんですよ。壮絶だなんて思われるけど、介護って意外と楽しめるよ』


こう仰るのは日本占術協会 会長 福田有宵先生「有宵会」所属、現代養生食介護食アドバイザ−でもある黒江真帆先生。認知症のお母様と過ごされた13年間の介護生活の経験を交えて、お話ししていただきました。






QOL(Quality of lifeの略称)とは“生活の質”を意味します。


“介護の現場を支える”という場面で“QOLを大事にする”といった言葉をセットのように耳にします。

ですが、実際に介護という現場に直面したとき、生活の質なんていう生易しいことは言ってはいられません。


メディアで「介護されている人のQOLを守りましょう」と司会者の方が言う度に、誰が守るの?と疑問に思います。

何故なら、介護をする人は介護が始まった時点で色々なことを諦めなければならない状況になります。

例えば、以前から予定していたことや計画していたことも、些細で当たり前にしていたことを、介護される人もする側も時間の調整をやむなくして、諦めなければならないことが多くなります。

時間もなくなれば体力もなくなる、そんな中で介護する人のQOLが維持出来なければ、介護される人のQOLも維持はできません。

QOLを守るということも大事かもしれませんが、それ以前に相手が家族、配偶者など様々なケースがありますが、その人らしさを掴んで好みを理解することの方が大切なのではと考えます。

介護される人にとって一番大事だと私が思うのは、その人の居心地をいかに良くするかということです。


衣食住の環境を整える、とくに衣食に関しては、着心地がいい、食べ心地がいいということが結果、居心地がいいということにつながるのではと考えるからです。

私が母の介護のとき、特に気を配ったのが肌着です。

下着などは見えない部分ではありますが、直接肌に触れるものです。

お年寄りになってくると、老人性乾皮症などで粉をふくときもあります。

ポリエステル素材など静電気が起きやすいものを着ると、痒みを伴い蕁麻疹がでてそれで眠ることができずに、昼夜逆転といった負のスパイラルに陥ってしまうこともあります。

ですから、肌着はなるべく肌触りが良く、着心地がいいものを選んでいました。

その日の状態によって、微熱があるとか食欲がないとか色々なことがありますが、前回お話ししたように口の中を想像してメニューを作ることも食べ心地を良くするひとつです。


大根を細かく切ったり薄く切るというよりは、ふろふき大根のように大きく切って柔らかく煮て、汁を多く含んだ状態で舌でつぶせるほうが美味しいかもしれませんよね?

そういったことを想像して食べ心地を良くしてあげることが、衣食住を整えてあげることにつながるのではないでしょうか。


これらを始めた頃から認知症の母の口から、「帰りたい」とか「出かけてきます」という言葉が少なくなった気がします。

母にとって居心地が良くなったのかもしれませんね。

それともう一つ心掛けていたのが、本人の自己有用感や役に立っているという感覚は少なくなってきますが、私は積極的に「手伝ってね」とお願いしていました。

実際は手伝えていなくても、自分が役に立っている、そこにいていいんだという気持ちを持ってもらえることが大事だからです。






「介護する側のQOLとはなんでしょう?」

介護する人は、介護という日々の中で色々なことを諦めざるをえないことが多くなります。

イライラって家族間でも出ますし伝染します。イライラが出て良い結果が出ることはまずありません。


介護する側のイライラが伝わると、あっという間に負の状態にスイッチが入ります。

自分の放った一言で不穏な空気を招いてしまい、罪悪感からモチベーションを引き上げなくてはと思うのですが、自分のモチベーションと相手のモチベーションも上げてと2倍のエネルギーが必要になってしまいます。


そうこうしているうちに状況は増々悪くなってしまうことも。

やはり人間ですから、どうしても疲れてくると険しい表情になってしまいますが、そうするとそれを見た相手もキツイ顔になるし、頭がはっきりしている状態の人なら申し訳ないという暗い表情になってしまいます。

イライラや機嫌というのは合わせ鏡のようなもので、私はこれを笑顔を作ることで解消していました。


笑顔こそ最大の防御で、私の場合は家に入る前に一度深呼吸をして、口角を上げて笑顔を作ってから、ただいまと家の中に入っていました。

こうすることで、笑っているというバロメーターが相手に伝わり、そこでホッとするんですね。

ホッとすることでモチベーションがキープされて、会話がとんちんかんであれ、スムーズに事が進んでいくわけです。


その頃の自分の写真を見ると、どれもこれもこんなに笑っていたんだと、自分でも驚くほど笑顔のものばかりです。

とにかく作り笑いであっても、それだけで相手は安心するし、こちらも楽になるので、本当に合わせ鏡のようだなと感じましたね。

人間、余裕があってこそ人に優しくできるので、気力、体力全てにおいて余裕がなくなれば、どうしても人に優しくはできません。


色々なことに右往左往して自暴自棄になることもあります。

介護というのはゴールもなければ先が見えません。


ですから自分のQOLをどこで着地させるか、それらをしっかり踏まえた上で、先ず自分のQOLを維持する、そして自分が無理だと思ったら長引かせないことがとても大事なことです。

“介護には正直なところ、向き不向きがあります”


親族間でも介護をする人としない人と、はっきり別れます。


昔と違って、施設に預けたことで心苦しいとか、「親の面倒もみないで仕事して、そんなに綺麗な格好をして毎日出かけるなんて!」と親戚の方に言われたとしても、その人のHowtoがあります。

その人が決めたことが最良じゃなくても、家族の間や親子、介護をすると、される人の中の妥協点で導いたものは正解じゃなくても、私はその過程においては最良だと思っています。


こっちも少し諦めて、こっちも少し諦める。


こっちが全部諦めということじゃなくして成り立つということもありますよね。

心の格闘は日々あります。

ですから、介護のプロであるケアマネが何と言おうと、正解はありませんし、マニュアル通りにいかなくて当たり前なのです。


今は社会資源がたくさんあります。


ケアマネや包括センターに相談して、使える手段はどんどん使いましょう。

そういったことで、うまく自分の時間を調整して自分の未来も描けるような介護をすることが、私のQOLではないかと思っています。


介護される人のQOLというのは、する人のQOLが落ちては成り立たないと思います。

それを妥協して、“私はこうしたんだから”というような気持ちになってしまうと、長続きはしません。

決して暗く考えずに、毎日が花マルより、とんとんで終わればいいのではと思っています。

“私じゃなきゃ親の介護はできないのよ”という気持ちは、最後まで持っていてかまいませんが、“自分じゃなくても大丈夫なのかも”という気持ちも十分持っていないと心が折れてしまいます。

これは育児にも当てはまりますが、“巣立っていく”ことが育児なら、介護は“旅立って行く”ことで大きな違いは、残るのは後悔しかないということです。


どんなに一生懸命やったとしても後悔は残ります。


どうせ残るのであれば、自分なりにできることはして、できないことはできないと諦める。

あのとき施設に入れてあげれば・・・など、できないことを望んだ後で後悔するのは、難しい後悔になってしまいます。

ある程度、介護する人に配慮して計画を立てたら、次は自分の中でどういう時間が自分自身に使えるかというのを、あまり諦めを持たずに活用してほしいと思います。



介護は忙しいといえば忙しく、今までのように忙しいのかといえばそうでもないという状況で、私は介護が始まってからは家にいることが多かったので、この資格だけは取ろうということをいくつか頭に置いていました。


介護が最終的に終わった段階、自分が介護という括りの中で用済みになったときの、自分の目標を決めておくのです。

なぜなら、自分の未来の映像を描いておいたほうが、がっかりせずに済みます。

介護生活の中で時間がないことは事実ですが、家にいることが多くなるので、融通は利きます。

その辺りのことも考えておくと、後々介護をしていた時期を振り返って、あれはあれで良かったのかもと思えますしね。

介護というのはマスメディアが言う“壮絶”という部分もありますが、実はけっこう楽しい面もあります。


今までだったら見えなかった親子間の距離が見えたり、私があんなに頑張れたのは母がいたからだと思いますが、私が看ていたのではなく、母が私の支えだったのですね。


介護にマニュアルも正解もありません。


ですからその場に応じて、自分らしい介護というのを早く見つけて、悲観的にならずにその中で息抜きをしながらで良いと思います。


本日は貴重なお話しをありがとうございました!

自分の人生に「介護する」時期がくる人も、こない人も、今まさに介護奮闘中の人も、笑顔で向き合っていけるように日々の工夫が大事なのかもしれませんね。


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